中国で実績ある科学技術者が大量に死去―コロナ“爆発”で特別待遇の余裕なし
中国工程院は公式サイトを通じて、12月15日から1月4日までの間に、計20人の工程院院士(工学アカデミー会員)が逝去したことを明らかにした。2週間余りの期間内死去数は通常の年間を通じての死去数より多い。
中国工程院は延べ900人余りの院士を擁している。院士らには、三峡ダムや高速鉄道ネットワーク、宇宙ステーションなどの国家の重点プロジェクトに大きく貢献した実績がある。12月15日から1月4日の間に亡くなった院士20人のうち、最年少は1945年生まれで原子時計の専門家だった李天初氏で、最年長は1920年生まれの著名な小児科医の張金哲氏だった。新型原子炉、レアアース工業、光ファイバー開発、レーザー兵器などの分野でのリーダーとしての役割を担っていた院士数人も、逝去者リストに名を連ねた。
中国工程院は過去5年間の平均で、毎年16人の院士しか亡くなっていない。2021年には13人にとどまった。なお、中国工程院の公式サイトには、亡くなった院士の生没年が掲載されているが、死因は示されていない。
北京のある医師は香港で発行される英字紙「サウスチャイナ・モーニングポスト」に対し、「現在の爆発的な流行により病院には、院士を優先して医療待遇を保障するための空きベッドがない状態だ」と明かした。中国では、官僚や共産党員、軍人、さらに公的役職に就く者について、厳格な序列制度を設けている。中国科学院や中国工程院のメンバーに対しては、省レベル行政区での順列第2位の共産党委員会副書記や、広州市や大連市、深セン市などの省に次ぐ重要都市である「副省級市」に指定された都市の市長などの階級である「省部級副職」と同格の待遇が与えられる。医療面についても「省部級副職」と同様に優遇される。
しかし、北京市内にある某大病院に勤務する医師は、「最近の感染症拡大で大病院は混雑しており、中国科学院や中国工程院の院士が搬送されてきても、病院のロビーで補助ベッドを確保できただけでも幸運だ」と述べたという。同医師は、「新型コロナウイルス感染症の爆発的な流行で医療需要が激増し、他の病気の治療が延期を余儀なくされている」とも説明した。同医師は、プライバシーに関する「敏感な問題だ」として、実名を出すことを拒否したという。
中国政府が22年12月に、新型コロナウイルス対策としての規制を突然に緩和すると、大都市での爆発的な流行が発生した。中国政府が発表する感染状況についての公式な数字は、国民の実感とはかけはなれている。中国政府・国家衛生健康委員会は12月下旬に毎日の統計数字を発表しなくなり、疾病予防管理センターが毎週の傾向を発表するようになった。
また中国では国家衛生健康委員会トップの同委主任をはじめとする高官が、新型コロナウイルスに感染した後に従来からの基礎疾患が悪化して死亡した事例については、新型コロナウイルス感染症による死者としては数えないと述べている。中国政府は情報の透明性を強調しているが、ドイツなど他の国は一般的に、新型コロナウイルスに感染して死亡した場合には、感染症が直接の死因ではなくても、新型コロナウイルス感染による死亡として統計を出している。
世界保健機関(WHO)も、新型コロナウイルスによる死亡をあまりにも狭く定義する中国のやり方について批判し、「このような公式データは感染爆発の深刻さをリアルに反映していない」と主張した。
サウスチャイナ・モーニングポストは、高齢の院士だけでなく、中国の若い科学研究者も同様に感染症により大きな影響を受けていると指摘した。参画するプロジェクトの進行日程に迫られて、病気になっても働かざるを得ない人も多いと言う。北京市在住で匿名を条件に取材に応じた物理学者は、「感染症が中国の科学研究に与える影響は現時点ではまだ判断が難しい。しかし出入国が間もなく自由化されることを踏まえると、中国の科学研究者と外国の同業者との交流は軌道に戻ろうとしている。そうなれば、多くの新しいアイデアが生まれるだろう」と述べたという。(翻訳・編集/如月隼人)